NXPの車載ミリ波レーダー製品の紹介

車載ミリ波レーダーは、自動車の先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術において重要な役割を果たすセンサーです。24GHz~77GHzの電波を用いて、車両周辺の物体の距離、速度、角度を高精度に検出し、悪天候や暗闇でも安定した物体検出性能を発揮します。このページでは、車載ミリ波レーダーの概要と、車載ミリ波レーダー市場をリードするNXPの先進的なレーダー製品ファミリーをご紹介します。
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車載ミリ波レーダーとは

車載ミリ波レーダーはADASや自動運転技術において重要なセンサー

車載ミリ波レーダーは、自動車の先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術において重要な役割を果たすセンサーです。
ミリ波レーダーは、24GHz~77GHz周波数帯の電波を使用して、物体との距離、速度、角度を高精度で検出します。車載ミリ波レーダーはこの技術を応用して、車両の前方や周囲にある障害物、人、他の車両など物体を正確に識別します。この技術は、悪天候や暗闇でも安定した性能を発揮し、カメラやLiDARなどの他の車載センサーと比較しても優れた環境適応性を持っています。さらに、低コストで高耐久性を備えているため、一般車両から商業車両まで幅広く適用可能です。
現在の主な用途は、前方衝突警告(FCW)、自動緊急ブレーキ(AEB)、アダプティブクルーズコントロール(ACC)、車線変更支援(LCA)、死角検知(BSD)などのADS分野が中心です。
ミリ波レーダーは今後の自動運転技術の進化を支える不可欠な要素として重要視されており、物体認識性能の向上、リアルタイム処理性能の向上、低コスト化を進展させる取り組みが続けられています。

車載ミリ波レーダーのイメージ

車載ミリ波レーダーは高解像度化とコスト削減、統合化が進む

車載ミリ波レーダーの技術トレンドは、主に高解像度化、コスト削減、そして統合化に向かっています。

高解像度化により、車両の周辺環境をより詳細に認識することが可能となり、車両や歩行者、障害物の検出精度が向上します。これにより、自動車の安全性が向上し、複雑な交通状況にも対応できるようになります。

自動運転を実現するには、周辺環境を認識するためのセンサーをいくつも搭載する必要があります。これらのセンサー・システムにかかるコストを低減することは、自動運転を普及させるうえでの重要なポイントになります。ミリ波レーダーチップを製造する半導体メーカーは、レーダー送受信機能、高周波アナログ回路、ADC、信号処理DSP、プロセッサーなどのコンポーネントをワンチップに統合した製品の開発を進めています。ミリ波レーダー機能のワンチップ化により、システムの実装面積を削減することができるので、ミリ波モジュールの小型化が可能となります。さらに、高周波フロントエンドからプロセッシングまで処理をパッケージ内でシームレスに処理することができるので、レーダー・システム開発コストの削減が可能となります。このように、ミリ波レーダーチップのワンチップ化は、レーダー・システム開発のトータル・コストの削減に貢献します。

車載ミリ波レーダーは、自動車の安全性と利便性を高めるための重要な技術として、今後も進化を続けるでしょう。

車載ミリ波レーダー高解像度化のイメージ

車載ミリ波レーダーのアークテクチャーは
エッジ・レーダーから分散型レーダーへ向かう

車載ミリ波レーダーは「エッジ・レーダー」と「分散型レーダー」の2種類のアーキテクチャーがあります。

以下にエッジ・レーダーと分散型レーダーの特徴を解説します。

エッジ・レーダー(Edge radar architecture)

レーダーセンサーモジュールは、車両の複数の部位に分散して配置されます。エッジ・レーダーでは、個々のセンサーモジュールでオブジェクトのクラスタリング(グループ化)とトラッキング(追跡)などの処理を完結し、各センサーモジュールはオブジェクトレベルのデータだけを中央演算ユニットに送信します。エッジ・レーダーは、センサーモジュールと中央演算ユニット間のデータトラフィックを低減できるメリットがあります。いっぽう、個々のレーダーセンサーに高性能なCPUや信号処理DSP(SPT:Signal Processing Toolbox)などの機能を持たせる必要があるため、コストが増加します。さらに中央演算ユニットは、個々のセンサーから受け取ったオブジェクト・データを統合する処理が必要となります。

エッジ・レーダーのイメージ

エッジ・レーダー

分散型レーダー(Distributed radar architecture)

レーダーセンサーモジュールは、車両の複数の部位に分散して配置されます。分散型(分散協調型)では、個々のレーダーセンサーでは処理を行わず、前処理したデータをセンサーから中央演算ユニットに集めて一括で処理します。分散型では、全てのセンサーデータを中央演算ユニットでまとめて処理するため、効率的な信号処理が可能になり、ADAS機能の安全性が向上します。さらに、個々のセンサーに高性能なCPUや信号処理DSP(SPT)などの機能を持たせる必要ないため、コスト削減が可能です。中央演算ユニットは、個々のセンサーから受け取った前処理済みのデータを一括処理することで、低レイテンシで分解能とオブジェクトの認識性能を向上することができます。いっぽう、センサーは前処理された大量のデータを中央演算ユニットに送ることになるため、通信データ量が増大します。そのため、センサーと中央演算ユニット間の通信データトラフィックの増加に対応できるGigabit Ethernetなどの高速データ通信インターフェイスが必要となります。中央演算ユニットは、いちどに膨大なデータを処理する必要があるため非常に高い処理能力が要求されます。

分散型レーダー(Distributed radar architecture)のイメージ

分散型レーダー

現在の車載ミリ波レーダー・アーキテクチャーは、エッジ・レーダーが主流です。

現在は、半導体メーカーにてワンチップ・レーダーICや、Gigabit Ethernetに対応したレーダー専用高性能プロセッサーなどの製品開発が進められています。これらのレーダー・チップセットの技術の進化と共に、将来の車載ミリ波レーダー・アーキテクチャーは分散型レーダーに向かうと考えられています。

参考

NXPの車載ミリ波レーダー製品

NXPは、車載ミリ波レーダー分野において先進的な製品を提供してきました。NXPは、統合性、安全性、セキュリティに優れた、MMIC、プロセッサー、レーダーSoC製品ファミリーをポートフォリオに持つ、車載レーダー市場をリードする半導体メーカーです。

次世代のレーダー・システムの開発者が求めているのは、処理リアルタイム性、省電力性、拡張性、効率性、統合性に優れた製品です。NXPはこれらの要求に対して、最新のレーダー製品ファミリー「RFCMOSレーダーSoC」「S32Rレーダー・プロセッサー」を提供しています。

NXPの車載ミリ波レーダー製品のイメージ

RFCMOSレーダーSoC

RFCOMレーダーSoCは、RFCMOS(Radio Frequency Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)技術を用いて製造された、RFフロントエンドとマルチコア・レーダー・プロセッサーを1デバイスに統合した、高集積ワンチップ・レーダー・システムです。

RFCMOSレーダーSoCは、エッジ・レーダーと分散型レーダーの両方のアーキテクチャーに対応します。

SAF85xx:高性能77 GHz RFCMOS車載レーダー・ワンチップSoC [開発中]

SAF85xxは、集中型レーダー・アーキテクチャーに対応するレーダーセンサーです。

RFフロントエンド、マルチコア・プロセッサー、SPT(レーダー信号処理DSP)など、レーダー処理に必要な機能をワンチップに搭載しています。

SAF85xxはNXPの前世代製品と比較して、2倍のRF性能とレーダー・シグナル・プロセッシングにおいて最大40%の高速化を実現します。

SAF85xx RFCMOS車載レーダー・システム・オン・チップ (SoC) は、車載FMCWレーダー用途に対応する高性能ワンチップ製品で、高速チャープ変調用に最適化されています。(中略) この第3世代RFCMOSレーダー・デバイスは、小型フォーム・ファクタで短距離、中距離、長距離のレーダ用途に対応し、エントリ・レベルのNCAPセンサから高性能フロント・レーダー・センサまで実現できます。

この完全集積RFCMOSチップには、4個のトランスミッタ、4個のレシーバ、ADC変換、位相回転器、低位相ノイズVCO、SPTレーダー・アクセラレータ、BBE32 Vector DSP、Arm Cortex - A53、Arm Cortex - M7コア、SRAMが内蔵されています。幅広い用途に対応し、オブジェクト・データ、点群データ、FFT出力などの各種レーダー・データ出力をサポートします。

NXPセミコンダクターズのSAF85xx ブロック図の画像

SAF85xx ブロック図

プログラムは外付けFlashに格納します。外部通信用にCAN FD x2チャンネル、Gbit Ethernet x1チャンネルを搭載しています。

詳しい情報は、NXP公式サイト 高性能77 GHz RFCMOS車載レーダー・ワンチップSoC でご確認ください。

SAF86XX:分散型アーキテクチャ向けワンチップRFCMOS車載レーダーSoC [開発中]

SAF86xxは、分散型レーダー・アーキテクチャーに対応するレーダーセンサーです。

SAF85xxと同様にRFフロントエンドとプロセッサーをワンチップに搭載していますが、SAF85xxからArm Cortex A53とSPT(レーダー信号処理DSP)が省かれて機能がスリム化されています。

SAF86xxは、将来の分散型車載レーダー・アーキテクチャをサポートする高集積ワンチップRFCMOSレーダーSoCです。内蔵RFCMOSチップには、4つのトランスミッタ、4つのレシーバ、AD変換、位相回転子、低位相ノイズVCO、BBE32EP DSP、Arm® Cortex ®-M7コア、およびSRAMが搭載され、近距離、中距離、長距離の車載レーダー・アプリケーションのさまざまなユース・ケースをサポートします。前処理済みのレーダー・データ(Gigabit Ethernet上の圧縮または非圧縮Range-FFTなど)をレーダーの後処理ユニットに提供します。

NXPセミコンダクターズのSAF86xx ブロック図の画像

SAF86xx ブロック図

プログラムは外付けFlashに格納します。外部通信用にMIPI CSI-2 x1チャンネル、CAN FD x1チャンネル、Gbit Ethernet x1チャンネルを搭載しています。

詳しい情報は、NXP公式サイト 分散型アーキテクチャー向けワンチップRFCMOS車載レーダーSoC でご確認ください。

SAF85xxとSAF86xxの機能比較

製品ファミリー SAF85xx SAF86xx
周波数帯
  • 76~81 GHz
  • 76~81 GHz
帯域幅
  • 合計帯域幅5 GHz
  • 最大4 GHzの有効チャープ帯域幅
  • 合計帯域幅5 GHz
  • 最大4 GHzの有効チャープ帯域幅
CPU
  • Arm Cortex- A53(320 MHz)
  • Arm Cortex- M7(320 MHz)
  • Arm® Cortex®-M7(320 MHz)
レーダー処理アクセラレーション
  • SPT 3.4(320 MHz)
  • BBE32 Vector DSP
  • BBE32 Vector DSP
オンボード・メモリー
  • 合計メモリー量5.5 MB以上
  • 4 MB SRAM
  • 2 MB SRAM、ECC付き
パッケージ
  • 10.6 mm × 11.3 mm FC-CSPパッケージ
  • パフォーマンスを向上させるLiP (Launcher-in-Package) パパッケージ・バリアントを提供可能
  • 11.95 mm × 14.00 mmのLiP (Launcher-in-Package) パッケージ・バリアントを提供可能
インターフェイス
  • SGMII Gigabit Ethernet 10/100/1000 Mbit/s × 1
  • CAN-FD × 2
  • SGMII Gigabit Ethernet 10/100/1000 Mbit/s × 1
  • LinFlexD/Uart × 1
  • CAN-FD x 1(オプション)
  • MIPI CSI-2
セキュリティ
  • ハードウェア・セキュリティ・エンジン (HSE)
  • EVITA Full、SHE+、ISO/SAE 21434準拠
  • ハードウェア・セキュリティ・エンジン (HSE)
  • EVITA Full、SHE+、ISO/SAE 21434準拠
  • MACsec
機能安全
  • ISO26262 SEoOC手法に従って開発、ASIL Bアプリケーションをサポート
  • 機能安全監視回路を内蔵
  • ISO 26262のSEoOC手法に準拠して開発。ASIL Bのアプリケーションをサポート
  • 機能安全監視回路を内蔵
車載品質
  • AEC-Q100
  • AEC-Q100
動作温度範囲
  • -40~150°C (Tj)
  • -40~150°C (Tj)

S32Rレーダー・プロセッサー

S32Rレーダー・プロセッサーは、機能安全、セキュリティ、高性能プロセッサー、レーダー信号処理アクセラレーターの技術を組み合わせた、車載レーダー向け高性能プロセッサーです。コーナー・レーダー、フロント・レーダー、4Dイメージング・レーダーなどのアプリケーションに最適です。

S32Rレーダー・プロセッサーには、高性能なArm Cortex CPUと、レーダー信号処理を高速化するための専用アクセラレーターを内蔵しています。これにより、高解像度のレーダーイメージングとリアルタイムデータ処理が可能になります。通信インターフェイスには、現行のエッジ・レーダーで使用されているCAN FDに加えて、将来の分散型レーダー・アーキテクチャーで複数のレーダーモジュールから大量の生データを受信できるGigabit Ethernetにも対応しています。

S32Rレーダー・プロセッサーは、NXPのRFCMOSレーダーSoCやMMIC製品と組み合わせることで、次世代の車載レーダー・システムに求められる高性能と柔軟性を提供し、安全性と効率性を向上させるための最適なソリューションを提供します。

S32R45:イメージング・レーダー向け高性能プロセッサー

S32R45は、車載イメージング・レーダー向けに開発された高性能マイクロプロセッサー・ユニット (MPU) です。CPUには、Arm Cortex - A53コアと、Arm Cortex - M7コアを搭載しています。レーダーの複雑な信号処理を高速化するためのハードウェアアクセラレーターとして、SPT(Signal Processing Toolbox)、線形代数計算を高速化するLAX(Linear Algebra Accelerator)、BBE32 DSPを内蔵しており、次世代のレーダー・システムに求められるリアルタイム性と高解像度化を強力にサポートします。S32R45は、車両に搭載される高解像度のフロントまたはリア長距離レーダーセンサーを想定して設計されており、イメージング・レーダーの分解能を高めます。

NXPセミコンダクターズのS32R45レーダーMPU ブロック図の画像

S32R45レーダーMPU ブロック図

詳しい情報は、NXP公式サイト S32R45イメージング・レーダー向け高性能プロセッサー でご確認ください。

S32R41:高分解能レーダー向け高性能プロセッサー

S32R45は、車載77GHzレーダー向けに開発された高性能マイクロプロセッサー・ユニット (MPU) です。CPUには、Arm Cortex - A53コアと、Arm Cortex - M7コアを搭載しています。レーダーの複雑な信号処理を高速化するためのツールとしてSPT(Signal Processing Toolbox)とBBE32 DSPを内蔵しており、次世代のレーダー・システムに求められるリアルタイム性と高解像度化を強力にサポートします。S32R41は、車両に搭載される高解像度のフロント・レーダーまたコーナー・レーダーに最適です。

NXPセミコンダクターズのS32R41レーダーMPUのブロック図の画像

S32R41レーダーMPUのブロック図

詳しい情報は、NXP公式サイト S32R41 高分解能レーダー向け高性能プロセッサー でご確認ください。

S32R45とS32R41の機能比較

製品ファミリー S32R45 S32R41
CPU
  • 4x Arm Cortex-A53 @800 MHz
  • 3x Arm Cortex-M7 Lockstep@400 MHz
  • 1x Arm Cortex-A53 @800 MHz
  • 2x Arm Cortex-M7 Lockstep@400 MHz
レーダー処理アクセラレーション
  • SPT 3.1 @600 MHz
  • BBE32 DSP
  • LAX 1.0:100 GFLOPS以上
  • SPT 3.5 @600 MHz
  • BBE32 DSP
インターフェイス
  • 2x 第2/3世代PCIe
  • 2x Gigabit Ethernet 10/100/1000 Mbit/s
  • 8x FlexCAN FD
  • 4x MIPI CSI-2
  • 2x Ethernets:1x RGMII (1000 Mbit/s)、1x RMII (100 Mbit/s)
  • 2x FlexCAN FD
  • 2x MIPI CSI-2
メモリー
  • 8 MB SRAM、ECC付き
  • DDR3L-1600(16/32ビット対応)およびLP-DDR4-1600/3200(16/32ビット対応)
  • 8 MB SRAM、ECC付き
セキュリティ
  • ハードウェア・セキュリティ・エンジン (HSE)
  • ハードウェア・セキュリティ・エンジン (HSE)
  • ISO21434準拠の製品開発
セーフティ
  • ISO26262 SEooC ASIL B(D)
  • ISO26262 SEooC ASIL B(D)
車載品質
  • AEC-Q100
  • AEC-Q100
動作温度範囲
  • -40~150°C (Tj)
  • -40~150°C (Tj)

まとめ

車載ミリ波レーダーは、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転において重要なセンサー技術として今後も進化を続け、ドライバーと歩行者の安全性と快適性の向上に貢献します。

このページでは、車載ミリ波レーダーの概要と、NXPの先進的なレーダー製品ファミリーをご紹介してきました。NXPのレーダー製品にご興味がありましたらネクスティ エレクトロニクスまでお問い合わせください。

NOTE:NXPのミリ波レーダー製品に関する詳細情報は一般公開が制限されています。詳細情報を入手するには、NXPとのNDA(秘密保持契約)の締結が必要となります。

関連情報

RFCOMレーダーSoC関連リンク

S32Rレーダー・プロセッサー関連リンク