1.背景

従来、車載カメラは1~2MP程度の解像度が主流でしたが、近年ADAS(先進運転支援システム)への取り組みが急速に進み、センシングカメラはより高画素化が求められています。(図1)
映像データの高速伝送については、ADI(旧MAXIM)のGMSLが既に多くの車両で使用されています。
GMSLで扱える映像の上限は2MP程度でしたが、新しくリリースされたGMSL2を使用することでより高画素なカメラの映像データを扱うことができるようになりました。
本ページではADI(旧MAXIM)の次世代GMSL、GMSL2について特徴を説明します。

2.MAX96717 CSI-2 to GMSL2 Serializer

MAX96717は、第2世代GMSL Serializerで、最大6Gbpsの通信速度を実現しています。MIPI CSI-2 (4Lane D-PHY)で入力されたデータをGMSLラインからシリアル伝送 (STP or COAX cable)します。

パッケージは5×5mmのTQFN(左図)
例えば、MAX96717搭載のカメラモジュール4つと、MAX96724 Quad-port GMSL2 Deserializerと組合わせが可能です。(右図)

  • 5×5mmのTQFNを示す図
  • MAX96717搭載のカメラモジュール4つと、MAX96724 Quad-port GMSL2 Deserializerと組合わせを示す図
  • MAX96717 CSI-2 to GMSL2 Serializer 特徴

    • フォワードチャネルは3Gbps または 6Gbps、リバースチャネルは187.5Mbps
    • 4レーン MIPI CSI-2 v1.3入力ポート
    • MIPI D-PHY v1.2 レシーバ
    • 車載対応、ASIL-B準拠
    • I2C ⁄ UART、パススルー I2C/UART、SPI、GPIO、およびレジスタプログラム可能な GPIO
    • CRCによるEnd-to-Endのデータ整合性(トンネリングモード)
    • RoR(リファレンスオーバーリバース)クロックを使用した水晶フリー動作
    • 32-Pin (5mm x 5mm) TQFN Side-Wettable Package、0.5mmピッチ
  • MAX96724 Quad Tunneling GMSL2 ⁄ 1 to CSI-2 Deserializer 特徴

    • 個別に設定可能なクワッドGMSL入力
    • リンクレート:6 ⁄ 3Gbps(GMSL2)および3.12Gbps(GMSL1)
    • 逆方向リンクレート:187.5Mbps ⁄ 1Mbps(GMSL2 ⁄ 1)
    • GMSL2 ⁄ 1ピクセル入力とトンネル入力の混合に対応
    • 2×4または4×2レーンのMIPI CSI-2 v1.3出力
    • C-PHY v1.0定格(5.7Gbps ⁄ レーン)
    • DPHY v1.2の2.5Gbps ⁄ laneに対応
    • 車載対応、ASIL-B準拠(MAX96724 ⁄ F)
    • I2Cポート×2:最大1Mbps、設定可能なGPIO×9
    • リファレンス・オーバー・リバース(RoR)クロッキング
    • 小型TQFNパッケージ(8 × 8mm、標準およびサイドウェッタブル)

3.ハードウェア設計のポイント

MAX96717および他のGMSL2製品でも基本的には同じです。概要について下記(a)~(e)について確認します。詳細についてはドキュメントをご覧ください。

(a)帯域計算

MAX96717のGMSL2シリアル伝送ラインは最大6Gbpsです。
伝送したいデータがこの速度を超えない範囲であることを確認します。

例えば下記の画像データを伝送したい場合を考えます。

  • 1920 × 1080 pixel
  • YUV422 8bit
  • Frame rate 60Hz
  • 画像データを伝送時の処理イメージ図

一般的な映像信号には有効画素以外に、水平・垂直ブランキング期間が設けられています。ブランキング期間は表示画像としては無効ですが、データとしては送信されますので計算に含める必要があります。ブランキング期間はおおむね有効画素の1.2倍になります。

次の式を使用してPCLK(Pixel Clock)を求めます

PCLK = 1920 × 1080 × 1.2 × 60 = 149.3MHz

伝送する映像の帯域は次の式で計算します

Video Bandwidth = 149.3MHz × 8bit = 1.19Gbps

1.19Gbpsは6Gbpsより小さいためGMSL2で伝送可能ということになります。ただし、実際のGMSL2通信はビデオデータ以外にも様々なデータを共有して送信しており、ビデオデータとして使用できる帯域は6Gbpsよりも低くなります。詳細はユーザーガイドをご確認ください。

(b)GMSL伝送ラインの設計注意点

最大6Gbpsの速度で通信する高速伝送ラインのため、設計においては注意が必要です。
COAXケーブルを使用する際の設計注意点は下記になります

  • 配線はプローブポイントなどのスタブはNG、最短距離でレイアウトします。100nFのACカップリングコンデンサ0402サイズ目安、できる限りPinの近くに配置。pin - to - pin はインピーダンス50Ω。-側は50Ωを対GNDで接続
  • レイアウト例です

    レイアウト例画像
  • STPケーブルの場合も注意点は同様です。マイナス側も通信に使用します

(c)Line Fault

Line FaultはGMSL伝送ラインの異常を検知する機能です。なお次項で説明するPOCとは同時に使用できません。GMSLラインとLMNx端子およびGNDの間に分圧抵抗を接続することで、下記の異常状態を検知します

  • Short to battery
  • Short to GND
  • Open line
  • Line-to-line short
  • 下記のように設計を行います

  • STPケーブルの場合は下記のように設計を行います

  • レイアウト例です。Line Fault抵抗はスタブを作らないように、高速伝送ラインの直上にチップ抵抗の端子を接続するようにします

(d)POC(Power Over Coax)

POCはCOAXケーブルにおいて電源を重畳できる技術です。例えば、小型カメラモジュールのようにサイズ制約で電源ICを搭載することが難しい場合、Deserializer側から電力をCOAXケーブルに重畳し、Serializer側(カメラモジュール)で電力を受け取ることができます。高速通信と電力を同じCOAXケーブルで共有しますが、POCフィルタにより帯域を分けているためお互いに影響を受けません。

POCフィルタはインダクタと抵抗を使います。電源が通過する低周波域と、フォワード・リバースチャンネルが通過する高周波域を分けるようにフィルタ定数を決めます。下図のようなイメージです。

(e)ESD保護素子

GMSLラインにはICに内蔵のESD保護素子があります。この内蔵の保護素子では性能が足りない場合外付けでTVSダイオードを接続します。外付けTVSダイオードに要求される特性は、下記です

  • Capacitance of < 0.5pF or less to, prevent degradation of high-speed GMSL2 signal
  • Small package footprint lo minimize capacitance
  • Low breakdown voltage and low clamping voltage
  • Unidirectional, reverse-biased onto, the link
  • Two-port component to minimize lane-lane crosstalk
  • Line fault または POCを使用する場合は、ACカップリングコンデンサの内側(IC側)へ接続します。

  • Line fault や POCを使用しない場合は、ACカップリングコンデンサの外側(コネクタ側)へ接続します。

4.チャネルスペックについて

GMSL通信ラインは非常に高速です。特性を考慮しないと信号の減衰と反射の発生により、受信側でうまく信号を拾うことができません。基本的に下記(a)~(c)のチャネルスペックを満たしていればGMSL伝送線路としては仕様を満足するという判断になります。先に説明した、Line fault、POC、ESD保護素子を使用する場合においても、このチャネルスペックを満たすように設計してください。詳細についてはドキュメントをご覧ください。

(a)Pin-to-Pinにおいて、インサーションロスおよびリターンロスのチャネルスペックを満足すること

Pin-to-PinはSerialozerのGMSL出力ピンから、PCB配線、コネクタおよびケーブルを経由してDeserializerのGMSL入力ピンまでです。

インサーションロスは、3Gbpsの場合は1.5GHzで-19.5dB以内、6Gbpsの場合は3GHzで-21dB以内である必要があります
最終的には実機で確認してください

GMSL2 MAXIMUM CHANNEL INSERTION LOSS PIN-TO-PIN
  3 Gbps Forward ⁄ 187 Mbps Reverse 6 Gbps Forward ⁄ 187 Mbps Reverse
APPLIED BAND 2 MHzto 2GHz 2 MHz to 3.5 GHz
INSERTEON LOSS -19.5 dB at 1.5 GHz -21 dB at 3 GHz
  • 全帯域でのインサーションロスのスペックは下記です

  • リターンロスのスペックは下記です

(b)クロストークスペックを満足すること(近くに別の高速伝送ラインがある場合)

ブロードバンド・クロストークのスペックは下記です。1~4GHzで4mV(p-p)を満足してください

FORWARD DATA
RATE [GB ⁄ S]
REVERSE DATA
RATE [MB ⁄ S]
MEASUREMENT
FREQUENCY RANGE [MHz]
MAXIMUM
CROSSTALK
CONDITIONS
3 Gbps or 6 Gbps 187.5 Mbps 1 MHz to 4000 MHz <4 mV(p-p) Interferers are any combination of high-speed links

ナローバンド・クロストークのスペックは下記です

(c)リンクマージンスペックを満足すること

送信の振幅を徐々に下げていき、下記表のMinimum requiredまで下げても受信できるかを確認します。こちらは確認用のツールがありますので、詳しくはお問い合わせください。

CABLE DATA RATE
(FORWARD ⁄ REVERSE)
MINIMUM REQUIRED FORWARD
CHANNEL LINK MARGIN [mV]
MINIMUM REQUIRED REVERSE
LINK MARGIN [mV]
COAX ⁄ STP 6 Gbps ⁄ 187 Mbps 150mV 90mV
COAX ⁄ STP 3 Gbps ⁄ 187 Mbps 150mV 90mV

Note: A link margin tool is available through the Analog Devices GMSL GUI. Alternatively, software support is available for customers to develop their own implementation of these tools in their software.